都市内に豊富に存在する未利用エネルギー「下水熱」


家庭や工場などから排水された汚水は下水管を通して処理場まで運ばれ、処理されたのち海や河川に放流されています。

 この下水を運ぶ下水管は地中に埋設されているため外気の影響が少なく、下水の温度は「夏は冷たく冬は暖かい」という特徴をもっています。

 下水の温度と外気温の温度差の熱エネルギーのことを「下水熱」といい、冷暖房や給湯、融雪などの熱源に利用することによって、省エネ効果や省CO2効果を発揮します。

 下水熱は、安定的で豊富に存在するものの、未だ導入例は少なく、今後脱炭素化の推進に伴って利用促進が期待される再生可能エネルギーです。 

下水道の普及


下水道が本格的に整備されるようになったのは、第二次世界大戦後、産業が急速に発展して、都市への人口集中が進んでからのことです。

  産業の発展に伴って、1955(昭和30)年頃から、工場等の排水による河川や湖沼などの公共用水の水質汚濁が顕著になりました。

 そのため1970(昭和45)年の下水道法の改正により、下水道は町の中をきれいにするだけではなく、公共用水域の水質保全という重要な役割を担うようになりました。

 1970年頃で8%であった下水処理人口普及率も、令和2年末では80.1%まで普及しています。

  国土交通省HP、日本下水道協会HPより 

下水熱の用途


下水熱は、地域によって多少の差はあるものの、その温度は15℃前後であり、年間を通して温度変化が小さいという特徴から、空調や給湯、融雪、雪処理、農業など熱源として利用されています。

  

 たとえばヒートポンプを使用する暖房の場合、冷たい外気を熱源とするよりも、比較的暖かい下水熱を熱源とする方が、設定温度まで加熱する動力を小さくすることができます。機械にかかる負荷が小さくなることで、消費電力も小さくなり、電気代やCO2排出量の削減につながります。 

下水熱の利用システムの分類と特徴


 下水熱は、空調、給湯、路面融雪、雪処理、農業などの分野で活用されています。空調や給湯(プール含む)の場合は、下水熱を熱源とする水熱源のヒートポンプを介して冷房、暖房、加温が行われています。路面融雪の場合は、下水温度だけで融雪が可能な時はヒートポンプを使用しない方法(不凍液循環)で、融雪必要熱量が大きい時はヒートポンプで少し加温して融雪を行っています。農業の場合は、路面融雪の場合と同様にヒートポンプを使用する場合と使用しない場合があります。また、雪の多い札幌市では、市街地から排出される雪を下水熱で処理しています。

 下水熱の熱源には、下水管内を流下する「未処理下水」、下水処理場で処理された「下水処理水」の二種類があります。未処理下水を熱源とする方法では、下水管路内に採熱管を設置するため市街地などを中心に広範囲で利用が可能ですが、その熱ポテンシャルは上流からの下水流入量に左右されるため、設備は比較的小規模となります。一方、下水処理水を熱源とする方法では、下水処理場が熱源となるため利用エリアは限定的となりますが、流域の下水がすべて集約されるため熱ポテンシャルは高く、地域冷暖房や大規模融雪施設など大規模な設備が可能となります。

管渠内での採熱技術(管底設置型)


採熱管の折り返し部(沈水前)

採熱管ヘッダー(下流側)

不凍液を循環させる送集水管


矩形管内(2400mm×1700mm)への採熱管の設置事例(新潟市役所バスターミナル歩道融雪施設

採熱管の設置状況

採熱管ヘッダー(下流側)

採熱管ヘッダー(上流側)


円形管内(φ1000mm)への採熱管の設置事例(新潟小学校前交差点)

 未処理下水が流れる管渠内から採熱するには、採熱管に耐腐食性があること、採熱管が下水の流下阻害とならないことが条件となります。また、15℃前後と比較的低温の下水熱を採熱するため、採熱管自体の熱伝導率が高い方が効率が良くなります。最近では、高熱伝導のポリエチレン管(φ17mm)を何条にも管底部に並べる方法が増えています。そして、この採熱管内に不凍液を循環させ採熱を行っています。

 なお、この管底設置型採熱管の設計技術については下水道革新的技術実証事業(B-DASH)で研究が進められ、その成果は国総研資料(R3.3)で公表されています。